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新小説



41。


 朝、教室で理沙子ちゃんと顔を合わせて、合図があったというわけでもなく教室後方に移動し、今後の方針について話し合いました。
 僕も理沙子ちゃんもハンナも、それぞれ夜通し解決策を考えていたのですが、めぼしい案は生まれなかったようです。理沙子ちゃんの案は穏便すぎ、僕の案は回りくどすぎ、ハンナの案は過激すぎたのが原因です。
 行き詰まった空気の中、ハンナがおもむろに口を開きました。
「そういえば、あなた」僕を指さしているので、あなたは僕でしょう。「以前にもイジメに立ち向かったとか言っていませんでしたか?その際の解決はどのように落ち着いたんですか?」
「‥‥‥」
 僕が敢えて避けていた話題を‥‥。まぁ隠す理由も微塵もないのですが、今後の人間関係に余計な歪みを生まないための措置でした。
「イジメの主犯は、当時やんちゃやってた剛。いじめれてたのは僕の当時のクラスメイトの天慈っていう男の子。別に仲がよかったわけでもないけど、あの頃は正義感っていうつまらない理由で剛に立ち向かったんだ。結果、逆に僕がイジメの対象になりかけた。それを苦にした彼は以前から考えていた転校を決意して、転校前日の放課後に剛たちイジメグループに「明仁君をいじめるのはやめてください」って土下座したんだ」
 理沙子ちゃんはすでに知っていることのはずですが、それでもハンナと同じように青ざめた沈痛な面もちでした。その時僕がどんな表情だったのかは分かりません。
「そんでまぁイロイロあって、僕と剛は親友になりましたとさ、めでたしめでたし」
「‥‥えっ?」
 肩すかしを食らったハンナはずっこけるようにして、「いやいや・・・・肝心なところがぬけてるんですが」と異を唱えました。
「イジメに関する話は完結だよ。それが論点だろ。さて、車裂さんはどうしよっか~」
 あからさまにすっとぼける僕に険しい表情を浮かべるハンナ。このまま引き下がる人格ではないことはわかっていますが、なんとなく僕の威厳のために誤魔化しておきたいところでもありました。
 しかしそんな僕の思いを飛び越えて、理沙子ちゃんが代わりに答えてしまいました。
「その次の日、アキくんは剛くんからそのことを聞かされて大激怒っ!なんと学年一のガキ大将で喧嘩も最強、その上スポーツ万能の剛くんに掴みかかったの!隣のクラスにいた私にも聞こえるくらいの声で、「ふざけんじゃねえええええ!!!」って叫んで!」
「そ、それで・・・?」
 ワクワク、と擬音が聞こえてきそうな様子のハンナ。
「周りのクラスメイト数十人でも先生でも止めれないくらいに2人で暴れに暴れて、朝の10時から午後2時まで教室中どころか窓も全部叩き割って、顔中青あざだらけ体中傷だらけにしながら、最後にはグラウンドにまで飛び出して、ついに2人とも力尽きたの。つまり引き分け!」
 僕は顔が熱くなるのを感じながら、顔をパタパタと仰ぎます。完全に黒歴史です。その後しばらく友達できませんでしたし‥‥。しかも引き分けというより痛み分けといった方が正しいと思われます。剛は保健室で、僕は病院だったのですから。
「そして殴り合いの末に友情を見いだした2人はすぐに天慈くんの家に向かったんだけど、もう引っ越しが終わって誰もいなかったの。そこで学校に伝えていた引っ越し先に電話したら通じた。2人で、学校に戻ってくるように説得したんだけど、結局天慈くんは帰ってこなかった・・・・・・」
「・・・・・・」
 天慈くんが一番嬉しそうだったのは、僕がいじめられていないという事実のようでした。そして僕と剛が仲直り・・・・というか結束したのにも喜びを表してくれました。
 しかし。剛が「今後、イジメをしている奴を見かけたら俺がぶっ飛ばす」と言い、僕が「今度の夏祭りは、天慈くんも含めてみんなで行こう!」と言って2人で転校を阻止しようとしたのですが、彼は、
「ううん、気持ちは嬉しいよ。ほんとに。でも、やっぱり戻れないかな」
 そう言って、結局、僕たちの前から姿を消しました。
 今思えば当然です。子供の意思一つで引越しをどうこうできるはずもないのですから。引越しと転校はもともと両親の都合で話題になっていたことだったらしいですし。
「そしてアキくんは、うちの小学校では知らぬ者のいない有名人になりましたとさ。この学校でも、アキくんのことを“悪魔の男”って呼ぶ人もいるのよ?」
 剛といっしょにイジメを行っていた連中のことでしょう。事件以来、目を合わせてくれません。
「悪魔の・・・」
「“魔王”とかね。実戦科学部が“魔窟”って呼ばれてるのは、もしかしたらアキくんのせいかもね」
「理沙子ちゃん、勘弁してくれよ」
 逆ですよ、逆。魔窟の長だから魔王なんでしょうよ、きっと。
「それに論点がずれまくってるよ。イジメをどうするかっていう議論だったんでしょ?」
「あ・・・そっか」
「それに、剛みたいな“男のイジメ”と今回の“女のイジメ”とでは毛色がまったく違うでしょ。参考にはならないよ。もっとも、女の子7人を全員殴り飛ばして良いってんならそうするけど?」
 ちょっと過去をほじくり返されたので冷静さを欠いてしまっているかもしれません。理沙子ちゃん相手に、この口の聞き方はよろしくないように思います。反省。
「しかし、たしかに毛色が違いすぎますね。女のイジメには女のイジメの解決法があるのかもしれませんね」
 ハンナがしみじみと言うと、理沙子ちゃんも頷いて、
「そうだね。たとえば・・・・そう、話し合いとか?」
 話し合い・・・ですか。まあ、そうなるでしょうね。
 この場合問題となるのは、誰相手に話すのか、ということでしょう。イジメの実行犯である秋咲さんたちか、被害者の車裂さんか、はたまた発端である宮代さんか。担任の先生という線もありますね。
 そして話し合いを目論む以上、剛にはこの件を隠しておかねばなりません。あいつは、約束は絶対守るやつですから。
 と、そこで教室前方の扉が開き、殺雨先生が入室されました。
 時計を見ると、チャイムまであと3秒。
「  座れ  」
 2秒後、教室内の全生徒が粛して座しました。
「ホームルームを開始する」
 ・・・・たとえば殺雨先生なら、どうやってイジメを解決するのでしょうか。
 意気込んでみたは良いものの、はたして自分に解決は可能なのか。
 剛のイジメも、
 銀字の独裁も、
 四谷の侵食も、
 すべてに中途半端な結果しか出せなかった、この僕が。




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