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第一話


「月の下の殺人鬼」【目次】に飛ぶ



 結局あの後家に帰ってきてから、一睡も出来なかった月乃。
 朝5時半にリビングに下りて、顔を洗って髪を整えて、それから朝ごはんとお弁当を作る。
 自分の朝ごはんはパンにジャムを塗って口に放り込むだけ。それを牛乳で流し込み、フライパンを温める。
 昔から自分が料理をすることが多かったので、料理だけは上達したのだ。それから他の家事も一通りはこなせる。
 弁当が完成すると、もうじき起きてくるだろう妹のためにサンドイッチとリンゴを用意する月乃。

「あら、おはよう日和。今起こしに行こうと思ってたのよ」
「ん。おはよ」

 月乃へ一瞥もくれずに、リビングのテーブルに用意された食事へ向かう制服姿の中学生・日和(ひより)。
 いただきますと言うこともなく黙々とサントイッチを口に運んで、月乃が持ってきた牛乳を飲む。
 そして食べ終わってからバッグを持ってリビングを出ようとする彼女は、そこで今日初めて月乃の顔を見た。

「あれ、お姉ちゃん、その顔・・・・・・」
「え、ああ、うん。ちょっと転んじゃって」
「・・・・・・ふぅん。そうなんだ」
「うん・・・・・・」

 なんとなく気まずい雰囲気になり、日和はさっさと廊下に出て玄関へ向かった。
 残された月乃は食事の後片付けをしてから、自分も学校に行く準備を始める。身支度を整え、鏡に写る自分の顔をもう一度だけ見る。

 左頬に大きな湿布を貼った顔。
 妹の日和よりも全然可愛くない顔。
 昨晩も帰ってこなかった不倫中毒の母親の面影のある顔。

「・・・・・・遅刻しちゃう」

 昨日の夜貼った湿布を剥がすと、よく観察しなければわからない程度の腫れになっていた。
 重い足を引きずって、月乃は家を出た。


● ● ●


 遅刻ギリギリで教室に着いた月乃は扉をくぐった。それに気が付いて振り返ったクラスメイトとなるべく目を合わせないように自分の席へ向かいながら、おはようって言えなかったけど誰も気にしてないかな、と心臓の鼓動を早めた。
 けれど自分からおはようと言って、相手に変な顔をされたらどうしていいかわからない。相手から言ってきてくれれば、偽りの笑顔で乗り切ることが出来るのだが。

 席に着くと、少し離れた席の小林 美沙(こばやし みさ)がこちらに近づいてきた。

「おはよう、月乃ちゃん」
「おはよう、小林さん」

 この学校で唯一月乃が、用がなくても話せる人物である。いや、家族でもそうはいかないので、恐らく世界でただ一人ということになるだろう。
 家に行ったり家に招いたりということはしたことないが。
 カラオケなどにも行ったことはないが。

「昨日、この近くの神社で人が殺されたらしいよ」
「・・・・・・へぇ。怖いね」

 なんとなく、その被害者は男で小太りで包丁を持っていて全身ズタズタにされていたの? などと聞いてみたくなったが、月乃は自重した。でしゃばってはいけない。”でしゃばりは、イジメられる”。

「ニュースでやってたの?」
「ううん。今朝、漫研の女子が言ってたんだ。なんて名前だっけ・・・・・・まぁ、あのオタクだよ」
「そうなんだ」
「なんか、読んでる漫画の殺人鬼みたいだとか興奮してたのが、超キモかった。やだね、オタクって。私の妹もそうなんだけど。勘弁してほしいわ」
「・・・・・・うん、そうだね」

 月乃はその漫画の殺人鬼の名前と出身と武器と戦闘スタイルと外見的特徴を今すぐ言える。友達ではないし名前も知らないけど、それを言ったオタク女子が誰なのかも分かった。
 しかし、言わない。美沙はオタクが嫌いだ。だから月乃がオタクであることを知られてはいけない。そんなことがあった日には、最後の話せる人がいなくなってしまう。
 そして彼女の言葉を否定したりはしない。そんなことをしたら嫌われてしまう。だからひたすら同意して、しゃべらせ続けるしかない。

「妹といえば、日和ちゃん元気?」
「元気だよ。今日も可愛かった」
「ああ、うん。可愛いよね。あの子が身内とか誇らしいにもほどがあるよ。うちのブタ子と交換したい。でも月乃も美人だよね。その顔は遺伝なの?」
「・・・・・・やめて、からかわないで」
「いやいや、冗談じゃなくて。そりゃ日和ちゃんと比べたら誰だって見劣りするけど、月乃だって・・・・・・」

 そこでチャイムが鳴り響き、クラス中で出歩いていた生徒が自分の席に戻っていく。もちろん美沙も。

 美沙が月乃の席から離れ、月乃は早打つ心臓の鼓動を抑えつけようとする。
 美沙と話しているときでも、緊張の糸は張り詰めている。一瞬も気を抜けない。
 一度の失言が人生を大きく変えてしまうのだ。
 そしてでしゃばってはいけない。でしゃばりはイジメられる。
 褒められたら全力で否定しなければいけない。調子に乗っていると思われたら攻撃される。

 日和は可愛い。
 頭もいいし運動もできる。
 友達も多いし生徒会長だし学級委員だ。
 性格も良いし器量も良いし話も上手で面白い。

 だからいくら姉でも、劣った自分がなにか指図をしようなんておこがましいことを考えてはいけないのだ。

 美沙はこんな自分に構ってくれる大事な子だ。
 きっと誰とも話さない自分に同情して手を差し伸べてくれているだけだろうけど。
 だから不愉快な気分にさせてはいけない。

 自分以外は全て優れた人たちだ。そうでなくとも、強い人たちだ。
 だから自分は、いつもニコニコして、”仮面”を着けて接しなければいけない。
 でないとイジメられる。攻撃される。騙される。


● ● ●


 放課後、それぞれが部活や委員会に行くために教室を後にする。
 美沙も吹奏楽部なので、月乃は一緒に帰ることはほとんどない。

 こんなことなら、自分もなにか部活にでも入ればよかったかもしれない、と思うことが何度もある。
 もしかしたらとても性格のいい子が自分の相手をしてくれて、自分は今こうやって惨めな思いをしていないかもしれない、と。
 しかし体が弱い月乃は運動部や吹奏楽部なんて絶対に入れない。
 昔から家に篭りがちだった月乃は二次元に傾倒していったので、漫研になら入っていいとも思ったのだが、漫研の入部申し込みの教室がどこにあるのかを部活勧誘のとき真面目に聞いていなかったのでわからなかったのだ。
 誰に聞いたらいいのか分からなかったし、誰にも聞けなかった。

 しかし結果としては、漫研に入っていたら美沙と友達になれなかったかもしれないし、これでよかったのだと自分を納得させる。

 気が付いたら教室の生徒が少なくなってきていた。

 そろそろ帰ろう、と月乃は席を立つ。
 夕食の買出しにも行かなければならない。完璧な妹に苦労をかけてはいけないのだ。自分が家事を全てこなさなければいけない。
 だから、早く帰らなくては・・・・・・

「榊さん」

 一瞬、自分の苗字が呼ばれたとは思わなかった。だからそのまま帰ろうとして、しかし途中で気が付いて声がした方へと振り返った。

 そこには、学年でも知らぬ者のない有名な男子が立っていた。とは言っても、月乃は彼の名前を知らない。ただ、顔がよくてサッカー部エースなので女子の間ではよく話に出てくるというだけで、月乃自身は興味がなかったからだ。
 しかし確か、佐々木、か斉藤、のどちらかだった気がする。はて、どちらだったか、と月乃は内心で首を捻る。

「なん・・・でしょうか?」

 とりあえず相手は有名人。それでなくとも初対面の相手には敬語の月乃である。

「あのさ、もしかして、月乃さんって彼氏いる?」
「・・・・・・? いませんけど・・・・・・」
「え、マジで!? そんなに可愛いから、絶対いると思ってたのに! っていうかみんな思ってるよ、うん」
「・・・・・・はぁ、えっと・・・」

 いきなり話しかけてきてなに意味わかんないこと言ってんだコイツ、と思いながらも、月乃は”営業用”のスマイルを顔に貼り付けた。

「あ、ごめんごめん。えっとさ、これから遊びに行くんだけど、もしよかったら榊さんもどうかなって。どう?」

 月乃はちらりと彼の後方へと目をやる。そこには数人の男子がこちらを覗いてニヤニヤしていた。
 確信した。
 罰ゲームだ。

 昔、小学校時代にイジメられてた頃、こういったことが何度かあった。くやしくて何度も突っぱねたらイジメが激しくなったので、最後の方はされるがままになっていたが。
 まさか高校でこの手のことをされるとは、と月乃は鳥肌を立たせた。
 そして、

「あの、ごめんなさい。これから一度家に帰って、夕飯の買出しに行かなきゃいけないので、ダメなんです・・・・・・ごめんなさい」
「え、あ、そう、なんだ。マジで。っつーかご飯自分で作ってんの・・・?」
「両親が滅多に家に帰らないので、妹の分も作らなきゃいけないんです。なので、ごめんなさい」

 へっへー、どうだこのヤロウ、イケメンを笠に着て調子こいてるからだバーカ! と内心で思いつつ、ドッキリ失敗で放心してる名も知らぬイケメンの横を小走りで抜けて、教室の外でニヤニヤしてた男どもを通り過ぎて、さっさと帰路に着く月乃。

 正直、半分は本当に行けなかったのだ。1時間くらいなら時間を作れないこともなかったが、それでなにかあって妹を待たせたりして機嫌を損ねられては堪らない。

 それに、あんな男だらけの中に1人で飛び込んでいく勇気はない。美沙がいなければ、全員女子でも行きたくないくらいなのだから。

 宣言通りに月乃はまっすぐ家に帰って、リビングにいた日和とその友達3人に軽く挨拶をして、惨めな気分で買い物に出かけた。


● ● ●


 悲劇と呼べるような悲劇があったわけではないのだ。

 ただ、小学校時代にイジメられて人を信用できなくなり、本当の意味での友達を作れなくなった。
 自分を偽ることでしか人と接することが出来なくなった。

 中学校時代には初めて人を好きになり、そして裏切られた。もう恋愛なんてしないと誓った。

 悲劇があったわけではないのだ。

 ただひたすらに、灰色の、人生だった。


● ● ●


「まさかと思って来てみたら、バカな死人が座ってらぁ」

 夜中の11時、前日と同じ神社の境内の『KEEP OUT』の内側で、1人膝を抱えて座っていた月乃。
 そんな彼女に声をかける少年がいた。

「・・・・・ばかだもん」

 少年の顔を見もせずに、俯いたままで月乃は呟いた。

「一応言っとくが、ここに来るまでにもう、1人殺した。だからムラムラしてねーぞ。殺せっつっても無駄だ、死人」
「・・・・・・ムラムラってなによ」
「性欲みてーなもんなんだ、オレの殺人衝動は。一発殺せばしばらくすっきりだ」
「じゃあ今は、賢者モードってことね」
「けん、じゃ・・・・・・? どういうことだ?」
「なんでもない」

 やはりこの少年も、オタクではないらしい。今のが分からないなら、あの漫画の殺人鬼の真似をしてるってことではなさそうだ。

「人を殺すのに理由はないの?」
「人を殺すのに理由なんてねーだろ。人を殺さない理由ならあるだろーけどよ。人が生きるのに理由なんてねーだろ? だが人が生きない理由ならある。だからアンタは殺して欲しがってんだろーがよ」
「・・・・・・そういえば、殺さない人間もいるんだっけ?」
「いるぜ。滅多にいないけどな。アンタを除けば、過去に4人見逃して、そのうちの2人は一緒に住んでる」
「えっ」
「片方は、アンタと同じでもう死んでるけどな。アンタより激しく死んでる。一日中オナニーしてるだけの人形だ」

 そう語る少年の表情は、昨日月乃を説教したときのように、どこか悲しげな色を含んでいるように見えた。

「・・・・・・殺さない理由は2つあるって言ってたわよね。なら、一緒に住んでるもう一人が死んでないなら、どうして殺さないの?」
「アンタにゃ関係ねーだろ、死人が」
「なによ! 殺さないんなら構いなさいよ、ばか!」
「んだとォ!?」

 どうやらこの少年、やや沸点が低いらしい。そして普段の冷静さは”仮面”のようだ。
 仮面・・・?

 そういえば、全くの赤の他人で、しかも同年代で、しかも異性。
 なのに自分はどうして、目の前の少年に敬語を使っていないのだろうか。
 ”仮面”を被っていないのだろうか?

「あ? 急にどうした?」
「・・・・・・べつに。ただ、久しぶりに、本音で喋った気がして・・・・・・」
「は? いつも嘘ついてんのか? 嘘つきは泥棒の始まりだぜ?」
「うるさい人殺し!」

 そう、こうやってツッコミを入れることも・・・・・・それどころか大声を出すのだって。
 昨日、彼に対して怒鳴ったからだろうか。そしてそれでも自分を見放さずに、むしろ発破をかけるような言葉を返してくれたからだろうか。

「・・・・・・。あなた、ここら辺に住んでるの?」
「最近ここらに越してきたんだ。前のところで警察のマークが厳しくなってな。それに環境が変われば・・・・・・ああ、いや、なんでもねぇ」
「?」
「ここの警察はノロくてやりやすいぜ。しばらくはここにいるつもりだ」
「そ、そうなんだ。へぇ~」
「まぁアンタと会うのはこれで最後かな」
「えぇ!?」
「な、なんだよいきなり」

 突然過激な反応を見せた月乃にたじろぐ少年。

「な、なんで? ここら辺に住んでるんじゃないの?」
「いや、オレは夜にしか活動しねーから、出歩いて何度も目撃されたら面倒だろ? 警察が情報規制しててあくまでウワサとはいえ、”殺人鬼”っつー物騒なウワサが流れて実際に人が死んでんのに、こんな夜遅くに神社に来るなんておかしいじゃねーか」
「う・・・」

 確かに、この時間にこんなところに来るのは、月乃のように殺されたがってる人間か、少年のように殺したがってる人間かのどちらかだろう。
 しかし殺人鬼については放送されていないのか。それは月乃も知らなかった。実際に目の当たりにしている以上、事実として知ってしまっているわけであるし。

「でも、殺すためには外に出てるんでしょ?」
「だから露出は最小限に減らす必要があるんだろーが。「リスクは最小限に」。人殺しの基本だろ。アンタは小学校で何を習ってきたんだ?」
「一般教養と道徳だよ!!」

 月乃の表情に一瞬陰が射し、

「・・・・・・それと、人を信じちゃいけないっていう教訓」
「はん、イジメか。アンタ美人だから、妬まれたんだろ」
「え?」
「ん?」

 互いに顔を見合わせて、しばらく動きを停止する。
 そして、互いにゆっくり顔を赤くして、暗黙の了解でその会話を打ち切った。

「っつーか、アンタもこんな夜遅くに家を出て大丈夫なのかよ? 家族とか心配しねーの?」
「お父さんは海外に単身赴任でずっと帰ってこないし、お母さんはそれをいいことに不倫三昧で家にはほとんど帰らない。妹はあたしに興味なんてないし」
「・・・・・・あっそ。でもそれなら、妹はアンタが殺されたら困るんじゃねーの?」
「妹はなんでもできる完璧な子だから、あたしがいないくらいで困らないよ。もしかしたら、葬式では泣いてくれるかもしれないけど、葬式費用で泣いてるのかもね」
「ひねてんな、アンタ」
「あなた以外には、いつもにこにこして嘘っぱち並べてるだけだから、ご心配なく」
「そうかい。だが完璧な人間なんていねーよ」
「かもしれないけど・・・・・・妹は泣かなくても、あたしは多分泣く。コンプレックスの塊だけど、妹が死んだらもう生きていけない。自殺する。ねぇ、あなた。人を殺せれば、相手は誰でもいいんでしょ?」
「まぁな」

 じゃあ、と月乃はポケットから一枚の写真を取り出した。携帯があれば画像でもよかったのだが、生憎と榊家は携帯を持ってる人間はいない。
 写真は日和の林間学校でのものである。友達数人と楽しそうに写った写真。
 日和の部屋のコルクボードに留めてあった写真を勝手に拝借したものである。

「この真ん中の可愛い子が、あたしの妹の日和。夜に出歩くことはないと思うけど、お願い、この子だけは殺さないで」
「ちょっとアンタと似てるな」
「どうしてもムラムラしたなら、あたしを殺して。この子だけは、殺さないで。お願い」
「この子を殺さずに見逃したら、オレは別の誰かを殺すぜ? つまりアンタとアンタの妹のせいで、死ぬんだ」
「日和のせいじゃない。あたしのせいで、その誰かは死ぬ。それでいいから、日和だけは・・・・・・」

 初めて月乃が死人のような思考ではなく、生者のような思考で訴えた言葉に、少年はため息をついた。
 そして差し出した写真を乱暴にひったくる。

「・・・・・・わぁったよ。この真ん中の子だな? 今いくつだ?」
「14歳。中学ニ年生」
「あっそ。この子と、あとできるだけ中学生っぽいのは殺さねーよ」
「あ、ありがとう!!」

 思わず立ち上がって少年の手を取ろうとする月乃。
 しかし少年は「おぉっとぉ!?」と叫びながらその手を素早く回避する。

「え・・・・・なに?」
「いや、オレは昔から、人に触ると反射的に殺しちまうんだよ」
「そ、そうなんだ・・・・・・」

 するとその時、神社の鳥居の方から懐中電灯の光が向けられた。距離が離れているので直接照らされてはいないが、チカチカと光が瞬いているのが見える。
 そして、自転車から降りたらしいその人物はこちらへ足早に近づいてきた。

「なにしてるんだ君たち! そこは立ち入り禁止だぞ!?」

 数メートルまで接近してきて、どうやら彼が警察官であることが分かった。
 やましいところはないのに、なんとなく月乃は心拍が上がってしまう。

「ご、ごめんなさい。すぐに帰ります」
「君たち、なんでこんな時間にこんなところにいるんだ?」
「え・・・・・・」

 月乃は少年をちらりと伺う。すると、寝巻きのようなズボンに、静かに片手を突っ込んでいるところだった。

(こ、こいつ、殺る気だ・・・!!)

「だ、だめですか、彼氏と神社に来ちゃ!!」

 月乃は少年と警官の間に割って入り、突然大声を出した。警官も少年もきょとんと目を丸くしている。

「え・・・いや、駄目ではないが、しかし殺人犯はまだ捕まっていないんだ。危ないじゃないか」
「たしか、被害者は全身ズタズタになってるんですよね? 友達から聞きました。そんなことをするなんて、きっと怨恨ですよ。それにまだ連続殺人犯だと決まったわけじゃないじゃないですか! 付き合い始めたばっかりなのに、殺人鬼なんていう嘘っぽいウワサ話を信じて夜デートを中止なんてありえません!!」
「・・・・・・し、しかしだね、未成年が深夜に歩き回るのは・・・」
「わかりました! じゃあ明日から10時までには帰ります! それでは! 行こう、ダーリン!」
「お、おう・・・」
「おい、君たち!」

 月乃は少年の手を握ろうとして、思いとどまる。そして警官を大きく迂回して、鳥居に向かって走った。

 そのまましばらく走る2人。どうやら警官は追って来てはいないようだった。

 警官が見えなくなるや否や、月乃はゼーゼーと荒い息をついて、地面に崩れ落ちた。
 彼女は体も弱いが体力も極端に少ないのだ。常にインフルエンザのようなものである。
 対照的に、少年は息一つ乱れていない。

「誰がダーリンだ、誰が。この死人め」
「しょ・・・・・・しょうが、ないでしょ・・・・・・あたしだって、もう、恋愛なんて、しないわよっ・・・・・・」
「わかったから、もう喋んな。死にそうな顔色してるぞ。悪ぃけど、おぶってやれねーからな。つい持ち運びやすい形に変えちまいそうだ」
「・・・・・・」

 虫の息の月乃をしばらく見ていた少年だったが、やがて彼女の近くを離れ、しばらくすると麦茶のペットボトル飲料を片手に戻ってきた。

「ほらよ」
「・・・・・・?」
「なんだよ、緑茶派だったか?」
「・・・・・・くれるの?」
「さっさと体温冷やせ」
「・・・・・・ありがと」

 おとなしく受け取って、大事そうに両手で包み込むようにして持つ。
 少年はそっぽを向いてしまっているので顔色や表情はわからない。しかし月乃は自分の顔が熱くなってるのを感じて、ボトルを顔に押し当てた。

「ねぇ、あたし、あなたの名前知らない・・・」
「そういや、オレもだ」
「・・・・・・榊、月乃」
「柚子葉だ」
「苗字? 名前?」
「偽名。本名は捨てた」
「なにそれ、かっこいい」

 くすくすと笑いあって、それから月乃は立ち上がる。

「じゃあ、もう行くね」
「送ってく」
「いいよ」
「よくねーよ。アンタが1人で帰ってるとこ、あの警官に見つかったら面倒だろ」
「あ、そっか。じゃあ手でも繋ぐ?」
「殺すぜ?」
「じゃあ、ペットボトル繋ご」
「・・・・・・なるほどね」

 そうして2人は月乃の家の前まで、ペットボトルの頭と尻を持ちながら、くだらないことを話し合いながら歩いた。


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